W杯が開催中だ。普段はセレッソを中心にJリーグを観るくらいなので、各国のメンバー表を見ても顔が浮かばない。 とりあえず結果だけ追っておくかという感じで過ごしていた頃、香港時代の元同僚から連絡が来た。日本代表のGL初戦、オランダ戦が終わった直後だった。
「Did you check the match? Japan team is so good!」
画面越しからでも異様な精神状態であることが伝わってくる。 続くチュニジア戦でも、日本が点を取るたびに有頂天のメッセージが飛んできた。
「I LOVE JAPAN!」
……
「こいつ、やってんな」と思った。
私が香港に住んでいたのは、前々回のロシア大会のころ。 試合によっては日中の活動時間に開催されるものもあって、湾仔のパブで、尖沙咀の居酒屋で、そして街中のJockeyClubで試合が放送されているのを目にした。 JockeyClubとはウインズのような施設で、MTRのどの駅の近くにもだいたいあった。 ある時、観塘のエニタイムフィットネスで一汗流したあと、駅に向かっていると、JockeyClubの前に人だかりができていた。 通り過ぎる時に中をのぞいてみると、ワールドカップの試合が放送されている。
人だかりの構成要員は日本のウインズのそれとよく似ている。盛り上がり方も同様だ。しかし放送されているのは香港代表の試合ではない。 明らかな得点機会以外にも、ボールがタッチラインを割ったときや、ファウルが発生したときなど、おっさんたちはレフェリーが笛を吹くたびに吠えている。
画面の端をよく見てみる。そこには見慣れたチームごとのスコア状況だけではなく、カード枚数状況やチーム名(繁体字)が表示されており、横になんらかの数字が併記されていた。
オッズだ。
おっさんたちはただ試合を観ているだけではない。人生を乗っけている。 それも何対何でどちらのチームが勝つのかという単純な試合結果予想ではなく、最初にゴールを決めるのは誰か、最後にゴールを決めるのは誰か、最初にカードをもらうのは誰かといった、試合内で発生する各種イベントに対して賭けている。
今大会、元同僚は日本代表に全てを賭けたらしい。ブラジル戦以降、彼からの連絡はぱたりと止んでしまった。
そういえば、別の香港人の元同僚に、車路士(チェルシー)の熱烈なファンがいた。今大会にもチェルシーからは11人の選手が出場しているらしい。 私が香港を離れてまもなく彼はイギリスに移住したと聞いた。彼は2019年の反送中デモにも参加していて、催涙スプレーで目を真っ赤に腫らしたまま出勤してきた姿が忘れられない。